えっちら、おっちら。客を乗せた驢馬が上がってくる。素直なやつはするする上がっているが、へそ曲がりなやつはどうにも寄り道がしたくて仕方がないらしい。御するおじさんも結構大変そう。
わあい、海だあ。島とはいえ、ずっと高い所にいたから、水面まで来たのは初めて。透明度が高くて、青い。小魚が群れて、キラキラ光っている。
狭いながらもまさに港で、波止場の脇に小さなお土産屋とカフェがある。少し離れたところに丸屋根の教会。本当に教会が多い。反対側の崖沿いにも何かの建物がある。見上げると、角度のせいか街はあまりよくわからない。しかしまあ、良くもこんな断崖絶壁に港だの街だの造ったもんだ。
船も何隻か停泊している。レトロな外観の火口クルーズの遊覧船は、ちょうど出航したところ。ドイツ国旗を掲げたヨットは、乗員がせわしなく作業をしている。うーん、絵になるなあ。まさかとは思うけど、ドイツから来たのかな？ 船体の国名まで見なかったけど。
エーゲ海クルーズの大型船が沖に停泊している。渡し船がやってきて、乗客を吐き出していった。おかげで波止場は大にぎわい。
そういえば、フィラの街でも、クルーズ客は目立っていた。滞在者とちょっと雰囲気が違っていたから。特にお年寄りの集団は、お揃いのポロシャツにツアーバッジ、一様に頸からカメラをぶら下げて・・・という感じで、目立ってたっけ。退役軍人会とか、そういうノリだったけどさ。
街の人口密度もクルーズ船が入ってくるとドッと増えて、出航していくとサアーッと波が引いたようになっていた。
波止場をぐるっと一周して、街へ戻る。登りは今度こそ驢馬か？ とも思ったけど、テレフェリック（ロープウェイ）にしました。とはいえ、テレフェリックも結構怖いんです。フィラの街から見ると、支柱が重力方向垂直に立っていないから、「本当に大丈夫か？」という気分になってしまうのです。切り立った崖に無理矢理何とか建設したという感じだね。これじゃあ、ちょっと斜めから負荷がかかっただけで崩れちゃうんじゃないか・・・という気にさせられるんですねえ。でもまあ、ちゃんと営業してるんだし、大丈夫でしょ。
クルーズ客の一番後ろに並んで、乗車する。基本的には時間制で発車するようだけど、クルーズ客が到着したりして満員になると、時間に関係なく発車してピストン輸送している。
程なくフィラの街へ到着。良かった良かった。テレフェリックからの景色は残念ながら印象に残っていない。
さて、この後どうしよう？
島の南側や遺跡、ワイナリーなどには全く行っていないので、ちょっと捨てがたいけれど、大して時間もないし、国際免許を取ってこなかったのでレンタカーやバイクは無理だしね・・・ということで、馬鹿の一つ覚えのように、再びイアへ行くことにした。
チェックアウトは１２時だから、とりあえず荷物をまとめに一度ホテルへ戻ろうとしたら、ホテル・アトランティス横の大きな＜ギリシア正教会＞の扉が開いているではないか。ホテルへ戻る前に入ってみた。
入るといきなり、金泥の壁が目に飛び込んできた。すごい。金の背景の中に、ビザンチン様式の聖人達。うぅん、濃いいなあ！ 正面の祭壇は、木枠に聖人のイコンが嵌められていて、これも濃密な印象。更に、堂の中央まで進んで丸天井を見上げると、大きなシャンデリアと、丸天井一杯に描かれたキリストと聖人達の絵が、我々を見下ろしている。・・・もう何も言えない、という感じの濃さ。嫌いではない。むしろ、ハマッってしまいそうな妙な魅力がある。
さて、それでは、ホテルへ戻って、テラスの親子にお別れすることにしましょう。
部屋へ戻ると、お母ちゃんは外出中。子猫たちだけが出迎えてくれた。相変わらず何匹かでじゃれ合っている。お前達、元気に育てよ。
荷物をまとめて部屋の外に出す。ドアの前に置きっぱなしにして、フロントへ。呼び鈴を押してしばらくしたら、スザンナがやってきた。足元を小型犬がちょろちょろしている。スザンナの飼いワンコらしい。デヘデヘと愛想の良い奴だ。
無事にチェックアウト。ピックアップ時に荷物を上まで上げてくれと頼んで、再びイアへ向かった。
昨日と同じようにバスに乗り、街へ入る。昨日と同じ風景・・・と思っていたら、風が穏やかなせいか、あれっと思うほど街の印象が違っていた。
白い家はより白く、青い空はより青く、碧い海はより碧く・・・風景が鮮明だ。同じ晴れでも、風一つでこんなに違うものかと感心してしまった。
気の向くまま、街の中をウロウロ。ちょうだいニャンコに会えることを期待して、お昼も昨日と同じ店。昼下がりにエーゲ海を一望するテラスでぼーっと出来るなんて、本当に幸せだわ。日本に帰りたくないと切実に思ってしまう（笑）。
食事の後、通りを歩いていたら、昨日のお土産屋さんのおばちゃんが、別のカフェの店先でくつろいでいた。笑いかけると、「息子の店なの」と笑顔。孫が走り回って、おばちゃんにまとわりついている（学校ってどうなってるんだ？）。私たちにとってサントリーニは非日常だけど、彼女にとってはこれが日常なんだよね。「クレイジーピープル！」と言いたくなる気持ちが、少し理解できた気がした・・・。
フィラへ戻って、カフェのテラスで一服してから、ホテルへ。フロントを覗くと、やっぱり荷物は上がっていない。呼び鈴を押すと、スザンナが出てきた。今朝のワンコも一緒にチャカチャカ走っている。
トイレを借りていると、お掃除をしていたお兄ちゃんが、部屋の前から荷物を上げてきてくれた。ああ〜、やっぱりこのお兄ちゃんが荷物運びするのね。昨日、隣のカップルがチェックアウトしたときも彼が運んでいたから、そうだろうとは思っていたけどさ。スーツケース二本だから、一本ずつ上げるだろうと思って（相当重いのよ！ 敷物や、真鍮製のアストラローベだのが入ってるから！）、わざわざ少し早めにホテルへ来たのに、お兄ちゃん、二本いっぺんに持ち上げてるし・・・脱帽ですよ、全く。チップははずんであげよう。
ホテル・アトランティスの横で、ピックアップを待つ。タクシーがやってきて、年輩のおじちゃんドライバーがにこにこしながら近づいてきた。荷物を積んで、出発するのかと思ったら、もう一人来るから少し待てと言う。しばらくすると、若い日本人の女の子が現れた。荷物はバックパック一つ。うーん、身軽で良いなあ。
タクシーの中で話を聞いていると、我々が乗り損ねたKLMで来たという。どうも同じツアーのようだ。早くに申し込んだのかと思いきや、一席だけ空いていると言うことで、ぎりぎりに申し込んだんだって。成る程、我々も一人ならKLMが取れたって事か。
空港に着くと、大混雑している。小さい空港なのに、案内板に、見たこともないような東欧系やドイツ系の航空会社の名前が目立つ。フランクフルト行きだのソフィア行きだの。それでも何とか空いているベンチを見つけて座り込む。と、隣の（多分ドイツ人）若い夫婦が連れている男の子が、何ともカワイイ！ 紙袋に入った小さなスモモをひっくり返しながら、裸足で走り回っている。親に許可をもらって、写真をパチリ。微笑ましい一こまでした。
アテネについて、再びホテル・エスペリアパレスにチェックイン。前の部屋より内装がキレイ。が、バスタブがとっても小さく、シャワーパンにお情けで深さがあるといった程度。これでは体を沈めることは出来ない。でも、熱いお湯は出るから、別に良いか。
夕食を摂りに、プラカ方面へ出かける。ホテルでだらだらとしていたせいで、時間はもう結構遅い。食いっぱぐれるのがイヤなので、H氏が薦めていた「ビザンチノ」というタヴェルナへ入ることにする。隣近所何件か見て、更に英語のメニューを確認してから席に着く。近所に比べて、値段は安め。日本人の姿も目立つ。愛想の良いウェイターが、わざわざ日本語のメニューを出してきた。うん、英語のメニューと値段は一緒だ。ぼる気はないらしい。
ムサカとドルマーデスを注文。スタッフドトマトが食べたかったのだが、もう遅いせいか売り切れ。残念。味のほうも申し分ありませんでした。
明日は早朝から、なんと日帰りでミコノスへ行く。ツアー外だから自分たちで空港まで行かなくてはならない。帰りがけ、コンシェルジュにタクシーの手配を頼んで部屋へ戻った。
６日目